江戸の空はどこまでも広く・・・

前回の日記の続きです。
芸大美術館「金刀比羅宮 書院の美」展の同時開催
「歌川広重 名所江戸百景のすべて」展 を観ました。


<堂々とした美しい「千住の大橋」>

これら広重の浮世絵はすべて芸大の収蔵品なのだそうです。
大学創立120周年を記念して修復を終えての展示という
ことでどの作品も発色よく、見応えありました。
正直最初は「浮世絵の風景だけずっとみて面白いものだろうか・・・」
などと思っていたのですが、数点観ただけで、それは余計な
杞憂だと気付きました。

なにより惹き付けられた理由は、実際にある(いや「あった」
と書くべきでしょう)場所の風景画であったということでした。
次々に視界に入ってくる情緒ある江戸の自然、街並を眺めて
いるうちに、本当に四角い窓から覗き込んでいる様な気持ちに
なりました。もちろん広重の構図力が窓へ導く強い引力に
なっていたことは間違いありません。100点は圧巻でした。

ですが「江戸」の魅力に浸ると同時になんともいえない切ない
気持ちに心が満たされました。それもあって窓を覗き続けず
にはいられなかったのだと思います。
作品の殆どが今から150年程前に創られたものでした。
それまでの江戸幕府以前からもずっと続く自然溢れるこの美しい
世界を現代人はたったの150年で跡形もなく無味乾燥な世界に
変えてしまったのだと思うと切なさ、痛さ、皮肉さなど色々な
感情が湧いてきました。一言で言うなら「もったいない」が適切
なのかもしれません。
いくら戦争や地震があったとしても、もう少しうまく復刻する
ことはできなかったんだろうか・・・とヨーロッパ等を翻って
みると(彼らは歴史的建造物をよく完全修復してます)思わず
におれません。


<今は目黒→恵比寿間のマンション密集地「目黒千代か池」>

江戸には美しい湿地帯や滝や山、崖、河川、橋、海がありました。
作品のあちこちに富士が描かれてます。
実際こんなにも江戸から富士が見えたのだろうかと思ってしまい
ますが、今でもあちこちに「富士見ヶ丘」や「富士見橋」
「富士見坂」などがあることを思えばそれは嘘ではないのです。
その他、東京のあちこちに残るやや大げさ?と思ってしまう地名
もこの頃の風景をみるとやっと納得できます。
広重が描く江戸の空はどこまでも広く、少しの高台で視界は
遥か向こうへ飛んでゆくのでした。
なくしてしまったものは大きすぎます。


<「王子不動之瀧」戦後北区の滝野川中学校建設に伴い姿を消した>

ゴッホやゴーガン、モネに強いインパクトを与えたと言う
浮世絵。会場では実際彼らが触発されて描いた作品と浮世絵を
並べて比較して見られるようにもなっていて興味深かったです。